ジャングルの中の天然温泉

シンガポール駐在員事務所
大西 弘城

 常夏のシンガポールでは自宅にバスタブが付いていないのが一般的です。筆者もシャワー生活にすっかり慣れてしまいましたが、 日本人としてはたまには温泉にゆっくり浸かって疲れを取りたいものです。シンガポールには火山がなく、地震が発生する確率が極めて低い国として知られています。 そんな国に天然温泉なんかあるわけないと半ば諦めていたのですが、実は意外な場所にあったのです。

 シンガポール唯一の天然温泉「センバワン温泉(Sembawang Hot Spring)」は、シンガポール島内の北部に位置しています。 数年前までは、源泉が流れ出る蛇口が設置されただけの殺風景な場所でしたが、政府が足湯専用の温泉公園として整備し、2020年1月にリニューアルオープンしました。 公園の入口から足湯エリアまで遊歩道が敷かれ、おしゃれなカフェが隣接するなど、近隣住民の憩いの場となっています。周囲には熱帯雨林が生い茂っており、日本ではあまり見ることのない「ジャングルの中の天然温泉」です。

ジャングルの中の天然温泉

足湯を楽しむ人々

 その歴史は古く、1908年に私有のパイナップル農園の中で中国人商人によって偶然に発見されました。すぐに村人の間で評判となり、 治癒力があるとされる温泉水を求めて多くの人々が集まってくるようになりました。第二次世界大戦中は、シンガポールを占領下においた旧日本軍が、 温泉の存在を知り、この地域にいくつもの入浴施設を作ったそうです。

 センバワン温泉の源泉は約70℃ですので、かなりの高温です。足湯に適した温度に下げるために、棚田のような階層になっています。 上層から下層に湯が流れていくと、温度も60℃→50℃→40℃と下がっていきます。足湯専用ですので、残念ながら入浴することは禁止されています。 気になる泉質ですが、成分表示がありませんでしたので、詳しいことは分かりませんが、硫黄の匂いがしっかりして、高い効能が期待できそうです。日本の温泉と比べても全く遜色がありません。

棚田のような階層

温泉エチケット

 こんなに良いお湯なら肩までゆっくりとつかりたいなと思っていると、なんと家から「マイ浴槽」を持参している老夫婦を発見。 お湯を入れた浴槽にお父さんが気持ちよさそうに浸かっています。そこにお母さんがお湯をつぎ足していくのですが、お父さんが火傷しないようにしっかりと湯もみをしてあげていました。 2人寄り添い仲睦まじい老夫婦の姿を見つめながら、身も心も温まる素敵な休日になりました。

老夫婦が持参したマイ浴槽

お父さんが火傷しないように湯もみをするお母さん