潜入!EVトゥクトゥク工場
バンコック駐在員事務所
吉田 恭脩
Urban Mobility Tech社が展開するEVトゥクトゥク「muvmi」
みなさま、初めまして。本年4月にバンコック駐在員事務所に着任致しました所長の吉田と申します。アジアの成長の熱気を現地からお届けできればと存じますので、どうぞよろしくお願い致します。
さて、今回の赴任に伴い、私自身、4年半ぶりにタイを訪れたのですが、その間の大半がコロナ禍であったにも関わらず、その成長速度は想像を超えており、ハード・ソフトの両面においてずいぶんと変化を遂げていました。
目についた数多くの変化の中から、今回はバンコクを象徴する乗り物であるトゥクトゥクの進化について取り上げたいと思います。
かつては、料金もぼったくりに近いものがあり、主に外国人観光客にしか利用されていなかったトゥクトゥクも、今では「muvmi」というUberのような配車アプリが開発され、明朗会計となったことから、地元民の足としても利用されるようになっていました。
しかも、以前のような爆音を鳴らし、黒々とした排気ガスを撒き散らしていた車体ではなく、今話題の電動化まで遂げているではありませんか。
Urban Mobility Tech社が展開するEVトゥクトゥク「muvmi」
「muvmi」アプリ
(ピンの位置が乗降ポイント)
「muvmi」アプリ
(ピンの位置が乗降ポイント)
そこで、そもそもこのEVトゥクトゥクはどこで作られているのだろうかと興味が湧き、インターネットで調べた企業へ工場見学の打診を行ったところ、タイの上場企業である「Bangkok Sheet Metal PCL.(以下、BM社)」さまから快諾をいただき、製造工場を拝見させていただくことができました。
(余談ですが、従来の内燃機関式のトゥクトゥクは、大小合わせ100社以上のメーカーが乱立しているそうです。)
BM社は多種多様な金属製品を製造している企業ですが、2021年後半から新たにEVトゥクトゥクの製造販売を開始されています。
当社のEVトゥクトゥクは充電スタンドも必要とせず、家庭用のコンセントから3時間の充電で満タンとなる仕様であり、車体サイズやバッテリー容量にもよりますが、1回の充電で50~100km程度走行することが可能です。
BM社のEVトゥクトゥク「WW」
バッテリーは運転席の下に格納
肝心の製造工程ですが、トゥクトゥクの市場は自動車ほど大きなものではないため、自動車のようにコンベアに乗せられ次から次へと製造されていくものではなく、当社においても工場の一画で1台1台製造されていました。
また、自動車業界のようにピラミッド状のサプライチェーンは存在せず、材料の加工から塗装、組立に至るまですべて自社で行っており、材料も、価格面での理由によりモーターやバッテリーの一部の部品を中国から輸入している以外は、すべてタイ国内で調達しているそうです。
製造工場の様子
塗装ライン
バッテリーの検査ライン
完成車の検査ライン
気になるお値段ですが、車体サイズや希望するバッテリー容量にもよりますが、標準的なモデルで36万バーツ(約150万円弱)とのことであり、現状では、従来の内燃機関式のトゥクトゥク比で約1.8倍(筆者調査による)と、まだまだ割高なようです。
BM社のティラワットManaging Directorによると、バンコクでは公道の走行に必要なナンバーの取得に規制があるため、当社においては現状、主な販売先は地方やリゾート施設、企業の工場向けに限られており、まだまだ製造台数は少ないとのことですが、近い将来、従来の内燃機関式のトゥクトゥクが、完全にEVトゥクトゥクに置き換えられるのは時間の問題でしょう。
新型コロナウイルスの影響による渡航制限も解除され、バンコクへお越しの際には「環境に優しい安心な乗り物」へと変化を遂げたトゥクトゥクに乗って、アジアの風を感じてみてはいかがでしょうか。
写真は全て筆者撮影
(2023年7月)