バンコクはいま、
空前の抹茶ブーム

バンコック駐在員事務所
小坂 拓史

 サワディーカップ。本年4月よりバンコック駐在員事務所に赴任しております、小坂です。

 バンコクに赴任して驚いたことのひとつが、街のいたる所に抹茶カフェがあることです。以前からじわじわと人気を集めてきた抹茶ですが、現在のバンコクの熱気は、みなさんの想像を超えているかもしれません。そこで今回は、バンコクの抹茶ブームについてご紹介します。

ショッピングモール内にある抹茶カフェ
ショッピングモール内にある抹茶カフェ

 休日にショッピングモールを訪れると、抹茶カフェは幅広い年齢層の消費者で賑わっています。鮮やかな緑色のラテやソフトクリームを手にした人たちが写真を撮り、SNSに投稿する光景は、今や街の日常風景となりました。一見すると、「映える飲み物」が流行しているだけのようにも見えます。しかし、実際に暮らしてみると、それだけでは説明できない広がりを感じます。

ショッピングモール内にある抹茶カフェ
ショッピングモール内にある抹茶カフェ

 タイでは近年、健康志向が高まり、「自然」「オーガニック」「砂糖控えめ」といったキーワードへの関心が強くなっています。抹茶はこうした価値観とも相性が良く、「健康的でおしゃれな飲み物」として受け入れられてきました。さらに興味深いのは、「抹茶なら何でもよい」という段階を過ぎつつあることです。店によっては「宇治産」「一番茶使用」「石臼挽き」といった説明が並び、消費者もその違いに関心を示しています。
以前は「日本風」であることが魅力でしたが、今では「本当に良いものかどうか」で選ばれる時代になってきたと感じます。

注文を受けてから抹茶をたてる本格志向の抹茶カフェ

注文を受けてから抹茶をたてる
本格志向の抹茶カフェ

 「抹茶ブーム」は数字にも表れています。日本茶輸出促進協議会のデータによると、日本からタイへの日本茶(緑茶・抹茶等)の輸出額はこの数年で大きく増加しており、特に2025年は前年比2.5倍と急増しています。街中で抹茶カフェを見かける機会が増え、日本産抹茶を使った商品が次々と登場していることは、こうした輸出の伸びとも重なります。

日本からタイへの日本茶(抹茶含む)輸出額
日本からタイへの日本茶(抹茶含む)輸出額

出所:日本茶輸出促進協議会公表データを基に作成

 抹茶人気の根底には、日本ブランドへの信頼があります。タイでは長年、日本の自動車や家電、食品などが高い評価を受けてきました。その積み重ねが「日本のものなら品質が高い」というイメージにつながり、抹茶もその延長線上で受け入れられているのでしょう。
一方で、その「日本ブランド」に求められるものも変わってきています。ブランド名だけでなく、品質や産地、生産者のこだわりやストーリーまで含めて評価されるようになっています。

産地ごとのメニューを提供する抹茶カフェ

産地ごとのメニューを提供する抹茶カフェ

 私自身、二度目のバンコク赴任となりますが、前回赴任していた頃と比べても、日本文化の受け止められ方が変わってきたことを実感しています。以前は「日本のものだから試してみたい」という好奇心が強かったように思います。今はそこから一歩進み、「より良いもの」「本物を選びたい」という消費者が増えています。この変化は抹茶だけでなく、日本酒や和菓子、地方の特産品など、日本ならではの価値を持つ商品にも共通しています。一杯の抹茶ラテの向こう側には、タイの消費市場の成熟と、日本ブランドへの期待の変化が映し出されています。

 バンコクは今、まさに「抹茶色」です。その鮮やかな緑色は、単なる流行ではなく、この国の消費市場が新たなステージへ進み、日本ブランドにも新たな価値が求められるようになったことを象徴する色なのかもしれません。

バンコクを染める「抹茶色」
バンコクを染める「抹茶色」

写真はすべて筆者撮影

(2026年7月)