見えない仕事が街を支える
~スマートシティの裏側で~

上海駐在員事務所
明賀 隆之/施 瑾

 ニーハオ!

 みなさま、こんにちは。上海駐在員事務所の明賀です。好評につき、今回も弊所現地スタッフの施とともにお届けします。

 上海で生活していて感じることの一つが、「街がきれい」ということです。毎日通勤で街を歩いていますが、道路にゴミが散乱している光景を見かけることはほとんどありません。 赴任した当初は、「上海の人はマナーがいいんだな」と感じていました。しかし、毎日街を歩いているうちに、その印象だけでは説明できないことに気づくようになりました。

 スマートフォン一つで買い物や食事の注文、タクシーの手配までできる上海。今回は、そんなスマートシティの日常を少し違った角度からご紹介します。

明賀:
上海って、人口2,000万人を超える大都市なのに、道路は意外なくらいきれいですよね。
施:

そうですね。でも、自然にきれいな状態が保たれているわけではありません。街を歩いていると、水色の制服を着た清掃員の方が、ほうきやちり取りを手に道路を掃いている姿をよく見かけます。

街の美しさを支える清掃員

街の美しさを支える清掃員

街の美しさを支える清掃員

街の美しさを支える清掃員

明賀:
確かに。朝だけではなく、日中でも本当によく見かけます。私も通勤中、毎日のように同じ場所で掃除をされている方を見かけます。最初は偶然かと思っていましたが、それが日常の風景なんですよね。
施:
上海では、道路や公共の場の清掃基準が定められており、清掃車と人の手を組み合わせながら、街をきれいに保っています。歩道や細い路地など、人の手でなければ清掃が行き届かないところも少なくありません。 私たちが何気なく目にしている街並みも、多くの人の仕事によって支えられているんです。
明賀:
そう考えると面白いですね。上海というと、「何でもデジタル化されている街」という印象が強いです。
施:
そのイメージは間違っていません。行政サービスのオンライン化やキャッシュレス決済など、上海では生活のさまざまな場面でデジタル化が進んでいます。
 でも、実際の生活を見ていると、「デジタルだけで街が動いているわけではない」ということにも気づきます。
明賀:
例えば、デリバリーの配達員もそうですよね。
施:
はい。中国では「外卖(wàimài)」と呼ばれるデリバリーサービスが生活に深く浸透しています。街では、黄色やオレンジ色のヘルメットと制服が目印の配達員を見かけることも多いですね。
 スマートフォンで注文すると、食事は短時間で届きます。利用者から見えるのは「便利さ」ですが、その裏側では、限られた時間で多くの注文に対応するため、配達員が効率よく街中を走り回っています。
複数店舗を回って、両手いっぱいの注文品を集めるデリバリー配達員
複数店舗を回って、
両手いっぱいの注文品を集めるデリバリー配達員
交差点では、多くのデリバリー配達員が信号待ちをする光景も日常となっている
交差点では、多くのデリバリー配達員が
信号待ちをする光景も日常となっている
明賀:
スマートフォンで注文するだけの便利なサービスですが、その裏側では、本当に多くの人が働いているんですね。
施:

シェアサイクルも同じです。上海では、スマートフォンでQRコードを読み取るだけで、街中の自転車をすぐに利用できます。 専用の駐輪ポートで借りて返す方式ではなく、街中にある自転車をその場で借り、利用後は駐輪可能な場所で乗り捨てできるのが特徴です。利用者からすると、とても便利なサービスです。
 ただ、多くの人が利用する駅前や商業施設では、自転車が一か所に集中し、歩行の妨げになることもあります。

利用後のシェアサイクルは、何重にも重なって歩道を埋め尽くすこともある

利用後のシェアサイクルは、
何重にも重なって歩道を埋め尽くすこともある

利用後のシェアサイクルは、何重にも重なって歩道を埋め尽くすこともある

利用後のシェアサイクルは、
何重にも重なって歩道を埋め尽くすこともある

 こうした状態を解消するため、作業員が街中を巡回し、利用状況に応じて自転車をトラックで移動させています。

シェアサイクルは、人の手で回収し、必要な場所へ再配置される

シェアサイクルは、人の手で回収し、
必要な場所へ再配置される

シェアサイクルは、人の手で回収し、必要な場所へ再配置される

シェアサイクルは、人の手で回収し、
必要な場所へ再配置される

 利用者が目にする整然と並んだ自転車も、こうした人たちの日々の仕事によって維持されているんです。

利用しやすいよう整然と並べられたシェアサイクル

利用しやすいよう整然と並べられたシェアサイクル

利用しやすいよう整然と並べられたシェアサイクル

利用しやすいよう整然と並べられたシェアサイクル

明賀:
「スマートシティ」という言葉からは、何でも自動化され、人が少なくなっていく都市を想像していました。でも、実際に暮らしてみると、そうではありませんでした。 便利なサービスが増えれば増えるほど、そのサービスを支える新しい仕事も生まれているように感じます。
施:
はい。もちろん機械化や効率化は進んでいますが、現時点では、人でなければできない仕事もまだまだたくさんあります。人とテクノロジーがそれぞれの役割を分担しながら街を支えている、と言った方が実態に近いかもしれません。
明賀:
今回のお話を通じて、いつも見慣れている上海の街並みが少し違って見えるようになりました。
 上海というと、EVやキャッシュレス決済、デリバリー、シェアサイクルなど、「最先端の都市」というイメージが先行しがちです。私自身も赴任した当初は、そうした分かりやすい変化ばかりに目が向いていました。
 しかし、街の何気ない日常に目を向けてみると、テクノロジーだけでは見えてこない、もう一つの上海の姿があります。便利さや快適さの裏側では、多くの人がそれぞれの役割を担い、街を動かしています。上海で暮らす中で実感したのは、 現時点のスマートシティは、テクノロジーだけで成り立つ街ではなく、人とテクノロジーがそれぞれの強みを生かしながら成り立っているということです。
 便利さの裏側にある、何気ない日常の仕事に目を向けてみる。そんな視点を持つことで、上海という街は、また違った表情を見せてくれるのかもしれません。ありがとうございました。
施:
こちらこそありがとうございました。今後も引き続き、「中国の今」を現地の視点からお届けしていきますので、よろしくお願いします。

写真はすべて筆者撮影
(2026年9月)