ベトナムビジネスあるある

ハノイ駐在員事務所
中山 紘

 先日、お客さまからこんな話を聞きました。

 「今度のビジネスで現地当局に書類の提出が必要なのですが、ルール外の書類追加の要請はあるわ、各種の期限は守られないわで苦労しています。専門家に助けを求めても人によって話が違うし、肝心の当局とは電話もメールも繋がらないし、もうお手上げです。」

 海外関連の業務経験がない方は、これを聞いてどう感じますか。日本だと考えにくい状況だと思います。私は海外業務に携わるまで、この手の話を聞くと内心「確認作業が甘いのでは?専門家の選定に問題があるのでは?そもそも英語や現地の言葉が理解できていないだけで、法令文書にはきちんと明記されているのではないか?ルールが曖昧で困るのは当局自身だし、そうに違いない。」と思っていましたが、実際には曖昧な法令やルールが少なくないのが海外、特にアジア各国の実態です。

 先日、ベトナム当局宛のとある届出について、関連する法令を確認していたところ、「期間1年以下の場合は手続き不要、1年以上は手続き要」とする条文に出くわしました。運悪くちょうど期間1年であったことから、届出の要否を複数の専門家に確認しましたが、見解はそれぞれ異なりました。加えて、ベトナム人スタッフとベトナム語の法令原文を確認しましたがやはり判断出来ず、関連当局に相談のメールをしましたが結局返信はありませんでした。

 また別の事例で、労働許可証に係る問題が最近ベトナムで発生しています。日本人がベトナムで就労する際には、ベトナム政府が発行する労働許可証が必要ですが、今年2月に施行された新政令では、その申請に必要な書類の定義や要件が曖昧となっています。具体的には、必要書類の1つに「大学等を卒業した証明」がありますが、卒業後にも取得可能ないわゆる「卒業証明書」ではなく、卒業式で交付されるこの世に1枚の「卒業証書」の提出を求められるケースが発生しており、対象者は実家の押し入れをひっくり返して探索するなど、その対応に苦慮しています。

 このような曖昧な法令に加え、政府当局の担当者が置かれている特殊な事情も、現場の混乱に拍車を掛けていると言われています。というのも、昨今ベトナム政府関係者の間では、過去に自身が承認した投資や都市計画の不振や不正発覚を理由に失脚し、社会的制裁を受けるケースが相次いでいます。

 そのため、当局の担当者は各種の申請書類等について、一度も突き返すことなく受理することは自分や上司にとってリスクと考え、少なくとも一度は反対したという痕跡を残すために、追加書類を要求したり不当な期限経過を行うと言われています。中には、当局宛の申請書類にあえて軽い不備をお土産として織り込んでおくというベテランもいるとかいないとか。

 ちなみに、労働許可証の件については、現在ハノイとホーチミンの両日本商工会議所が各国の商工会議所と連携して、ベトナム当局へ改善を求めていく方針のようです。ビジネス環境が一層整い、ベトナムへの海外からの投資が増加することを願っています。