ベトナムで活躍する
日本のスタートアップ企業

ハノイ駐在員事務所
中山 紘

 近年、ベトナムの人口は増加し経済も急成長を遂げています。その一方で、首都ハノイを中心に深刻な大気汚染や交通渋滞、日系企業も参画する都市鉄道の工事遅延等が発生しており、社会インフラや住環境の整備はまだまだこれから、といった状況が続いています。


ハノイのショッピングモール内にある
メドリングのクリニック(筆者撮影)

 中でも医療については、各地域に病院やクリニックが存在するものの、医師や設備の質の差が激しいことから、大きな病院に医師も患者も集中する「医療偏在」が課題となっています。駐在員にとっても無視できない問題であり、症状によっては飛行機でタイやシンガポールの病院に緊急搬送されるケースも発生するなど、医療水準の向上は今後のベトナムの発展において重要な課題の1つとなっています。

 また、コロナ患者への対応についても医療は逼迫しており、本コラムを執筆時点で感染拡大の震源地となっているホーチミンについては、医師や医学部生からなる医師団をハノイから派遣し、野戦病院と呼ばれる臨時の簡易医療施設を設けるなどして、国を挙げて抑え込みに取り組んでいます。

 このようなベトナムの医療環境の改善に向け、現在日本のスタートアップ企業がベトナムで活躍しています。
東京に本社のあるメドリング株式会社は2020年にハノイ市内にクリニックを開院し、クラウド型電子カルテやAI技術等の日本の先端技術を用いた診療を実施しています。その他にも、日本の医師にオンラインで医療相談が出来る遠隔診療サービスや、自社や連携施設で得た医療に関するビッグデータの活用等も行っています。


ハノイのショッピングモール内にあるメドリングのクリニック(筆者撮影)

 さらに、今後このクリニックをベトナム国内でチェーン展開し、高品質で均一な診療サービスを実施することで、ベトナムが抱える「医療偏在」という社会課題を解決することを目指しています。所得の上昇に合わせ、質の高い医療を求めるベトナム国民のニーズにマッチするだけでなく、国が抱える重要課題をも解決するこの取り組みに、日本とベトナム、双方の関係者が注目しています。

 なお、メドリングはジェトロ(日本貿易振興機構)が実施する「日ASEANにおけるアジアDX促進事業」に採択されており、医療分野でのDX実証を進めています。もともとハノイなどベトナム北部の都市にはITエンジニアが多いこともあり、医療をはじめ様々な分野でDXが起こり始めていると言われています。

 今回ご紹介したメドリングのように、AIやビッグデータ、クラウド等のデジタル技術を駆使しベトナムの社会課題を解決する日本企業が今後も増え、日本とベトナムの関係がより良いものとなることを期待しています。