中国の高齢者介護事情
~全职儿女の登場と
介護形態の多様化~

上海駐在員事務所
明賀 隆之/施 瑾

 ニーハオ!

 みなさま、こんにちは。上海駐在員事務所の明賀です。今回は、弊所現地スタッフの施とともに、中国の高齢者介護事情についてお届けします。

明賀:
施さんはこのコーナーに登場するのは初めてですね。まずは自己紹介からお願いします。
施:
みなさま、はじめまして。上海駐在員事務所現地スタッフの施瑾(SHI JIN)と申します。どうぞよろしくお願いします。
明賀:
さっそくですが、今回は中国の高齢者介護事情について教えていただけると聞きましたが、よろしくお願いします。
施:
はい、よろしくお願いします。中国人の視点で、中国の高齢者介護事情について、日本の皆さんにわかりやすくお話ししますね。まず、人口の高齢化は20世紀後半から世界的な傾向で、中国も例外ではありません。特に経済が発展している地域では、医療技術の進歩と生活水準の向上により、平均寿命が延びている一方で、出生率が低下しています。その結果、高齢者の割合が増えているんです。
明賀:
具体的な数字はどのくらいですか?
施:
中国国家統計局のデータによると、2021年末時点で60歳以上の高齢者は約2億6700万人で、総人口の18.9%を占めています。そのうち65歳以上の高齢者は約2億人で、総人口の14.2%です。これだけ多くの高齢者がいると、介護の形態も多様化してきます。
明賀:
具体的にはどんな介護の形態があるんですか?
施:
伝統的な介護の形態は大きく3つあります。まず、在宅介護が全体の90%を占めています。次に、コミュニティ介護が7%、そして施設介護、つまり老人ホーム等が3%です。
明賀:
在宅介護が圧倒的に多いんですね。
施:
そうですね。中国では伝統的な価値観が強く、家族と一緒に住むことが幸せとされています。在宅介護の利点は、家族が直接介護を行うため、絆が深まり、高齢者も心理的に安心できる点です。ただし、子供たちにとっては大きなストレスとなり、仕事や生活に影響を与えることもあります。
明賀:
それは大変ですね。最近の傾向としてはどうですか?
施:
最近では「全职儿女」(quanzhi ernu/直訳:フルタイムの子)という新しい形も出てきました。これは、両親と同居し、就職せずに家事を引き受けることで経済的支援を受ける若者のことです。特に最近の中国では、景気の悪化や再就職の困難さから、働きたくても働けない若者が増えています。そのため、こうした若者が「全职儿女」として家族の介護に専念するケースが増えているのです。また、一人暮らしを選ぶ高齢者も増えています。これは、子供たちが遠方に住んでいる場合や、独立した生活を望む高齢者が増えているためです。彼らには政府やコミュニティからの支援が必要です。
明賀:
割合は少ないですが、コミュニティ介護や施設介護についても教えてください。
施:
コミュニティ介護は、在宅と施設の利点を組み合わせたもので、高齢者は専門的なケアを受けつつ、比較的独立した生活を送ることができます。具体的には、地域のデイサービスセンターや訪問介護サービスがあり、日中はセンターで活動し、夜は自宅で過ごすことができます。これにより、家族の負担を軽減しつつ、高齢者も社会とのつながりを保つことができます。ただし、政府の支援や資金が必要で、サービスの質もばらつきがあります。
 施設介護は、老人ホームや介護施設で提供されるもので、24時間体制で高齢者の生活全般をサポートします。専門的なスタッフが常に高齢者のケアを行うため、安心感が高いことが利点です。しかし、費用が高く、多くの家庭には負担が大きいです。また、施設の質やサービス内容も施設によって異なるため、選択には慎重さが求められます。参考までに、先日、上海市内中心部の老人ホームを見学した際の写真を掲載しておきますね。
昼食の様子
昼食の様子
個室(二人部屋)
個室(二人部屋)
ロビー
ロビー
明賀:
他にも新しい形態があるんですか?
施:
はい、最近では「グループ互助介護」や「ホテル滞在介護」なども注目されています。グループ互助介護は、同じ志を持つ高齢者が集まって助け合う方式です。数人から十数人の高齢者が一緒に住み、日常生活を分担し合います。これにより、孤独感を解消し、経済的な負担も軽減されます。
 ホテル滞在介護は、ホテルの一部を介護施設として利用する形態です。高齢者はホテルの客室を居住スペースとして利用し、ホテルのレストランで食事を取ることができます。ホテルのスタッフが清掃や食事の準備を担当し、必要に応じて医療ケアも提供されます。この形態の利点は、生活の質が高く、ホテルの設備やサービスを利用できることです。ただし、費用が高くなることが多いため、経済的な余裕がある家庭に向いています。
明賀:
中国はすでに深刻な高齢化社会に入っているんですね。政府の取り組みはどうですか?
施:
政府はコミュニティ介護を重視していますが、介護者の専門能力の向上や若者の高齢者介護産業への参入促進、多様な雇用創出など、まだ多くの課題があります。高齢者介護の先進国の経験を参考にしながら、中国に適した介護サービスを構築していく必要があります。
明賀:
非常に興味深いお話をありがとうございました。中国の高齢者介護事情について、よく理解できました。
施:
こちらこそ、ありがとうございました。今後も引き続き「中国の今」をお届けしていきますので、よろしくお願いします。

写真はすべて筆者撮影
2024年9月