ECと実店舗、
その境界が薄れる中国消費のいま
上海駐在員事務所
明賀 隆之/施 瑾
ニーハオ!
みなさま、こんにちは。上海駐在員事務所の明賀です。好評につき、今回も弊所現地スタッフの施とともにお届けします。
今回のテーマは、ECと実店舗、その境界が薄れつつある中国の消費の変化です。日々の生活に深く入り込んだECの利便性と、あらためて見直され始めている実店舗の価値。現地で生活し、仕事をする中で感じている中国消費の「いま」をお伝えします。
- 明賀:
- 中国ではECの発展が著しい一方で、実店舗との関係にも変化が見られます。現地では、どのような動きが起きているのでしょうか。
- 施:
- 中国ではECと電子決済が生活インフラとして高度に普及しており、日用品や食材もスマートフォン一つで指定した時間に届けてもらえます。共働き世帯にとっては、時間的制約を補う重要な存在となっています。
- 明賀:
- 利便性という点では、世界でも突出していますね。
- 施:
- はい。一方で、ECの形態そのものも進化しています。従来の大手プラットフォーム型ECに加え、中国では「社交電商(SNSを起点としたEC)」や「私域電商(企業や個人が直接管理する顧客コミュニティを基盤としたEC)」といった販売手法が広がっています。
- 明賀:
- 具体的には、どのような仕組みでしょうか。
- 施:
- SNSを起点としたEC(社交電商)では、発信者が日常生活の共有を通じて商品を紹介し、ライブ配信で販売につなげます。中国ではライブ配信販売が一般化しており、双方向のやり取りを通じて購買につなげる点が特徴です。
一方、顧客コミュニティを基盤としたEC(私域電商)では、店主や企業が顧客との関係を直接管理し、信頼関係を前提に商品を提供します。仕入れを工場と直結させる例も多く、価格と品質のバランスに強みがあります。 - 明賀:
- 消費者としての実感はいかがでしょうか。
- 施:
- 発信者の価値観が自分に合えば効率的に商品に出会えますが、近年は発信者の急増により、商業色の強さや情報過多に対する疲労感も広がっています。
- 明賀:
- そうした動きは、実店舗にも影響していますね。
- 施:
- はい。ECの拡大により、実店舗は空室率の上昇や集客力低下に直面しています。一方で、価格競争や広告的な情報に疲れた消費者が、再び「体験」を求めて実店舗に目を向け始めているのも事実です。
- 明賀:
- 日本が今も中国人観光客を惹きつけている背景にも、実店舗の体験価値がありますね。
- 施:
- その通りです。商品を買う場にとどまらず、空間や接客そのものを楽しめる点が評価されています。こうした流れの中で注目されているのが、「新零售(新小売/ニューリテール)」という考え方です。
- 明賀:
- ニューリテールとは、どのような考え方なのでしょうか。
- 施:
- ニューリテールとは、オンラインとオフラインを対立させるのではなく、データやAIを活用して両者を融合させる小売モデルです。
- 施:
- オンラインで商品情報や利用シーンを発信し、関心を持った顧客を実店舗へと誘導します。実店舗では、商品を実際に試したり、接客や空間を含めた体験を提供し、その来店履歴や購買データを次の商品企画やサービス改善に生かしていきます。
こうした取り組みにより、単に商品を販売するのではなく、どのような使い方や生活シーンを提供できるかまで含めて価値を提案する方向へと、小売の役割が変化しています。 - 明賀:
- 商業施設の役割そのものが変わりつつあるわけですね。
- 施:
- はい。今後は、わざわざ足を運ぶ理由のある「目的地」であることが求められます。同時に、オンライン側も価格競争から脱却し、体験価値による差別化を図る段階に入っています。
- 明賀:
- 今日のお話を通じて、中国の消費の変化は、単なる販売チャネルの進化ではなく、生活や価値観そのものの変化と深く結びついていることを実感しました。 ECと実店舗をどう組み合わせ、どのような体験を提供していくか。その問いは、中国に限らず、今後のビジネスを考える上でも大きな示唆を与えてくれたように思います。ありがとうございました。
- 施:
- こちらこそありがとうございました。今後も引き続き、「中国の今」を現地の視点からお届けしていきますので、どうぞよろしくお願いします。

中国では、従来のプラットフォーム型ECに加え、SNSや顧客コミュニティを起点とした販売手法が広がっている

ECと実店舗は、対立関係から役割分担による顧客体験重視の関係へと変化している

オンラインと実店舗を行き来する顧客行動をデータでつなぐことが、ニューリテールの特徴
(2026年1月)