シンガポールの新型コロナウイルス対策について
シンガポール駐在員事務所
大西 弘城
新型コロナウイルスの感染が全世界に拡大しています。シンガポールにおいても、3月31日時点で感染者数926名、死者3名となっています。一方で、新型コロナウイルスに対する今回のシンガポール政府の対応は、爆発的な感染を抑制しているとして、世界的に高く評価されています。今回はシンガポールの先進的な新型コロナウイルス対策についてご紹介します。
シンガポールは東京23区とほぼ同じ面積に、人口約570万人が住むコンパクトな都市国家であり、国内で疫病が発生すると一気に国家の危機に瀕する可能性があります。2002年に流行したSARSでは、シンガポールにおいても死者33名を出し、同国の公衆衛生制度を大きく見直すきっかけとなりました。今回の政府の新型コロナウイルス対策(以下、ご参照)を見ていると、まさにこの経験を活かし、「科学的根拠のある対策を、スピーディーに実行に移し、全国民に徹底させる」ことで感染拡大を抑制しているように思えます。
① オフィスビルでの検疫
シンガポールでは、職場での1日2回の体温測定に加え、訪問者に対する体温測定が推奨されています。オフィスビルに訪問する場合、まず入口で体温を測定し、37.5度以上であれば中に入ることができません。37.5度未満であっても来訪者は、14日以内の海外渡航や感染者との接触の履歴、ID番号、連絡先等を申告して、ようやくオフィス内に立ち入ることができます。申告は二次元バーコード方式が採用されており、スマホで簡単に行うことができます。蓄積された情報は、同ビル内で感染者が確認された場合に感染経路や濃厚接触者を割り出す際に活用されます。
② 感染者のトレース
シンガポール政府は、二次感染を防ぐため、感染者のトレースを非常に重視しています。感染者には行動履歴に関する詳細なヒアリングを行い(虚偽報告には罰則あり)、濃厚接触者を追跡し、隔離することで感染拡大を抑制しています。職場や住んでいる場所まで開示されるため、国民が自分で感染者と接触した可能性があるかをWeb上で確認することもできます。
さらに政府は接触者を追跡するアプリまで開発しました。これはダウンロードしたスマホ同士が近づくと互いのIDが記録される仕組みで、仮にユーザーの感染が発覚した場合、感染者の近くにいた形跡のあるユーザーに連絡を取り、隔離等の必要な措置を講じるというものです。もちろんダウンロードは任意であり、どこまで普及するかはわかりませんが、このようなアプリをあっという間にリリースしてしまう実行力には驚くばかりです。
上記はほんの一例であり、その他にも先進的な対策を次々に実施しています。併せて政府が積極的な情報開示を行うことによって、国民の理解にもつながり、より実効性の高いものになっているように感じます。もちろん人口規模や政治体制の違いはありますが、我々が感染症対策についてシンガポールから学ぶべき点は多くあるように思います。