海上移動式ガソリンスタンド
HIROGIN GLOBAL
CONSULTING PTE.LTD.
澤本 康紀
シンガポールはアジアと世界を結ぶ海上の重要な要衝、マラッカ海峡に隣接しており、世界貿易における中継地点として大きな役割を果たしています。人口約600万人と小さな国であるため、国内消費は決して大きくはないですが、シンガポール港の海上輸送コンテナの取扱量は世界2位の規模を誇っており、大型船の貨物は小型船に積み替えられASEAN等の消費地に運ばれていきます。
船舶が航行するためには燃料が必要ですが、船舶の燃料は環境に優しい代替燃料への切り替えが進められているものの、現状では石油(重油)がメインです。燃料補給のためだけに港に立ち寄ることは時間や費用のロスが大きいため、荷物の積み下ろしと同時に行う方が合理的です。このため燃料が手に入りやすく、価格競争力が高いと、必然的に港としての競争力も高まることになります。
その点、シンガポールは世界でもトップクラスの石油精製量を誇ります。これは近隣に産油国であるマレーシア、インドネシア、ブルネイなどがある地理的優位性に加え、シンガポール政府が石油化学産業の誘致を行っているためです。複数の島を埋め立てで繋げたジュロン島には、規制面、税務面の優遇を行うことで世界的な石油会社が集積しています。精製場所と供給場所が近いため、シンガポールの船舶燃料価格は世界的にも安価であり、世界の燃料補給の約3割以上がシンガポールで行われ、その補給量は世界一です。
ジュロン島(筆者撮影)
船舶の燃料補給は、バンカー船という「海上移動式ガソリンスタンド」によって行われます。燃料を積み込んだバンカー船は、沖合で停泊する船に横づけして、ポンプを使って船から船へ移します。燃料補給はどの海域でもできるわけではなく、限られた海域でしか許されていません。したがって、そのエリアでは燃料補給待ちの船が数多く停泊しています。
バンカリングの様子①(興洋海運様ご提供写真)

バンカリングの様子②(興洋海運様ご提供写真)

バンカリングの様子③(筆者撮影)
ちなみにバンカーとは蒸気船が主流であった時代に、燃料用の石炭を貯蔵していた倉庫のことです。燃料は石炭から石油やガス等に移行しましたが、その名残から、船舶の燃料をバンカー、船舶が燃料を補給することをバンカリングと呼ぶようになりました。
シンガポール沖では、燃料補給のほか、船員の交代、船舶からの荷下ろし、荷積み、船上で使う日用品の補充等、様々な理由で停泊する船を見ることができます。シンガポールにお越しの際には、飛行機の窓から停泊する船を眺めながら、それらの船が「何待ち」なのかを想像してみると面白いかもしれません。
シンガポール沖に停泊する船舶(筆者撮影)